オーシャンズ6月号 『名刺代わりの腕時計』

時計には計時だけではなく、特定の目的のための専用機能を備えたものがある。例えば、航空計算尺付きのパイロットウォッチや逆回転防止ベゼルを備えたダイバーズウォッチ。特異な状況下で有用な情報を提供する、いわば"ナビゲーションウォッチ"である。なかでもスペースウォッチは特殊な存在といえよう。時間とは1日24時間で1回転する地球上において有効であり、地球圏外に出てしまえば役に立たない。「はたして宇宙で有効な時計の機能とは何か」。その問題に向き合ったのが、1959年にスタートしたアメリカ初の有人宇宙飛行「マーキュリー計画」で選ばれた宇宙飛行士のひとり、マルコム・スコット・カーペンター少佐だ。 カーペンターが出した結論は、たとえ船内での時間軸が異なっていたとしても、地球と同じ時間を共有することだった。そのためブライトリングのナビタイマーをベースに、通常の12時間から24時間表示にする改造をメーカーに依頼したのだ。

そして1962年、自ら考案したスペースウォッチを腕に、カーペンターは宇宙へと旅立った。そしてそこで目にした光景は、想像とはまったく違うものだったという。

まるでフィルムの早回しのように地球は姿を変え、わずか45分足らずで昼夜が入れ替わる。そんなスペクタクルに時を忘れそうになりながらも、カーペンターは手元の時計に支
えられ、決められたミッションを確実に遂行した。そして地球軌道上を3周し、4時間56分に及ぶ飛行を終えて無事帰還したのである。

カーペンターのような経験ができる者は世界でもほんのひと握りであろう。航空機の操縦桿を握ることも、深海を潜り続けることもないかもしれない。しかしナビゲーションウォッチに抱く夢や情熱、浪漫は変わらない。それは未知の世界に対して、自ら道を切り拓くという強い意志だ。その象徴がナビゲーションウォッチであり、だからこそ挑戦や冒険、リスクさえ好み、道なき道を進むフロンティア精神を持った「切り拓きたい男」の名刺代わりになるのだ。

※モデル着用の時計【BREITLING】
ブライトリング/ナビタイマー コスモノート

宇宙の深い青を思わせるブルーダイヤルが美しい名機。搭載される自社開発・製造のキャリバー「B 02 」では24時間表示や、1962年のオリジナルと同じ手巻き式にこだわった。あえて自動巻き式クロノグラフが生まれる以前の駆動方式を採用する心ニクい演出だ。S S ケース、4 3 ㎜径、手巻き。102万円/ブライトリング・ジャパン

= 宇宙開発競争の雪解けとなったモデル名 =
宇宙へと旅立った世界初のクロノグラフは大きな話題を集め、当時の広告にも登場した。実はその生みの親でもあるカーペンターは当初、このモデルに「アストロノート」と名付ける考えを持っていたが、完成したモデルにはソ連(当時)が宇宙飛行士を呼ぶ際に用いた「コスモノート」と名を授けた。当時、アメリカと宇宙開発で鎬ぎを削っていたライバルの通称だったが、あえて採用することで、互いに同じ宇宙を目指す者同士、という交友意識が生まれたというエピソードがある。