ユンハンス:マックスビル クロノスコープ【腕時計名作選】

ドイツの名門ウォッチメゾン、ユンハンスと“バウハウスの最後の巨匠”と呼ばれるマックス・ビルの歴史的コラボレーションは1950年代のウォールクロックにはじまりました。

そのモダンでタイムレスなデザインは高い評価を受け、ニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションとしても広く知られています。

そして1962年には、現在のマックスビル・コレクションの基となる腕時計のコレクションを発表しています。

ウォールクロックで見せた優れたモダンデザインを基本としながらも、エッジを削ぎ落とし、丸みを帯びたケースデザインはシャツの袖に引っかかること無く、装着感に優れる機能性の高いものであり、その発表以来今日に至るまで、ユンハンスの永久的な定番として、常にカタログを彩って来ました。

そんなユンハンス・マックスビルに、クロノグラフが登場したのが約5年前のこと。

かつてツールウォッチとして、特殊な用途の為の特殊な時計とされてきたクロノグラフは、1990年代の機械式時計復権以降、一般的な人気の高まりを見せて来ましたが、紳士用に限って言えば、近年ではプレーンな三針時計の生産量を上回るようになっています。

そんな中、マックスビル・コレクションにクロノグラフを、という発想は極自然な流れと言えるでしょう。

しかし、どうしても構成要素の多くなるクロノグラフは表情が複雑になりがちであり、ムーブメント由来のレイアウトの自由度の低さから、個性が損なわれてしまう例も多いのが実情ですが、このマックスビル・クロノスコープにおいては、マックス・ビルが再度手掛けたとしか思えない程に、オリジナルが持つ個性を損ねること無く、クロノグラフとして再構築することに成功しています。

ケース径を40ミリにまで拡大、オリジナル通りの細いベゼルとすることによって現れた広い開口部に、腕時計史上稀に見る大径のプレキシガラス製ドーム型風防を被せ、ケースサイドを極限まで絞りつつもケースバックを膨らませることによって、厚い自動巻クロノグラフのムーブメントを収めながらも、巧みにオリジナルが持つケースシェイプに近づけています。

もちろんそこに、近年の、特にエントリーラインの自動巻クロノグラフに見られる無駄な厚ぼったさは全く見られません。

そしてマックスビル・クロノスコープを作る為に新たに創作されたであろうプッシュボタンやインダイヤルのデザイン、そして9時位置に移動したブランドロゴも含めて、見事なまでにオリジナルデザインに溶け込んでおり、ユンハンスのデザインチームの非凡なる力量と、マックス・ビルへの敬愛を思わざるを得ません。

従来9時位置にあるスモールセコンドをあえて廃し、縦二つ目とすることでシンメトリーデザインを保った点、そして開口部を大きくしたことにより、インダイヤルによって削らざるを得ないインデックスを最小限としたことも、大きなポイントでしょう。

ユンハンスのマックスビルシリーズは、価格が必ずしも時計の価値を決める訳では無いことの好例であり、時代や流行を越え、普遍的で唯一無二の個性を持つプロダクトとして、もっと注目されてしかるべき存在であると、筆者は考えます。